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無痛分娩(硬膜外鎮痛法)について

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 無痛分娩

 当クリニックは、まだ無痛分娩があまり行われていなかった1994年の開院以降、無痛分娩を継続して施行してきました。県内では最も経験の長い施設の一つです。

 当クリニックの方針として、すべての産婦さんに対して無痛分娩をお勧めしているわけではありません。

 しかし、陣痛の痛みに対して極度の強い不安感をお持ちの方や、高血圧などの合併症があったり、高齢出産、睡眠不足などによる長時間の疲労の蓄積が 分娩の危険性を増強させるような場合には、無痛分娩は安全な分娩を行う上で、有効な手段と考えています。このような場合には、選択肢の一つとして積極的にお勧めしています。

 また、無痛分娩はマンパワー不足を補うため、計画分娩とセットにして行う施設が多いなか、当クリニックの特徴として、自然分娩中にいつでも希望したときに適宜行うことが可能です。したがって、陣痛開始前までに無痛分娩を迷われていた産婦さんが、分娩進行中に急きょご希望された場合でも無痛分娩ができます。つまり、 24時間対応の施設となってます。

  最近の無痛分娩率は帝王切開を除いた経腟分娩のうち、30%以上になっています。

  当クリニックは無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)の登録施設です。

 
当クリニックの無痛分娩に対する考え方 ~より自然に近く

 当クリニックでは無痛分娩(硬膜外鎮痛法)のデメリットを最小限に抑え、自然の分娩進行をできるだけ妨げないようにして、かつ鎮痛を得ることを目標にしております。

 麻酔薬を多く使うほど鎮痛の効果は高くなり痛みはゼロに近くなります。しかしその分、麻酔薬による影響が大きくなり合併症(微弱陣痛、回旋異常、分娩停止など)の出現率も高くなります。

 クリニックでは、敢えて持続的注入法(PCA)を行っておりません。鎮痛が不要な時期の麻酔薬の注入をあえて避けるためです。薬剤の投与量を抑えることで行動制限も減らせます。出来るだけ本来の出産の流れを阻害しないようにしています。

 ※持続的注入法(PCA)の場合は、安全管理の為に、常にベッド上安静で過ごさなければなりません。歩行禁止・禁食・床上排泄(数時間ごとの導尿)・頻回の体位交換が必要になります。

 

無痛分娩の対応方針
  1. 医学的適応がある場合
    1. 高血圧、妊娠高血圧症候群など
    2. パニック障害、不安神経症など心の病気で、陣痛に対する不安の強い方
    3. 緊急帝王切開術になる可能性が高い方
  2. 本人希望のある場合
    1. 自然陣発で常時対応可能(オンデマンド型)
    2. 計画分娩+無痛分娩

 

硬膜外鎮痛法の特徴
  1. メリット
  2. 鎮痛効果が確実なので十分にリラックスでき精神的ストレスが軽減します 血圧上昇や過呼吸が起こりにくいので胎児への酸素供給が確保されます 麻酔薬による胎児への影響はほとんど認められないと報告されています
  3. 注意点
  4. 麻酔の効き方に個人差があり、諸条件により麻酔の範囲や効果に変化があります
  5. 禁忌
  6. 出血傾向や抗凝固剤を内服されている方、麻酔薬のアレルギーがある方
  7. 慎重投与
  8. 脊椎疾患や神経疾患がある場合は、禁忌もしくは慎重投与になることがあります
  9. 副作用
  10. 低血圧・かゆみ・頭痛・発熱・一時的な感覚鈍麻や運動機能の低下。稀に麻酔中毒・呼吸抑制・神経障害・血腫・感染などがあります

 

オンデマンド型と計画分娩型
オンデマンド型 計画分娩型
陣痛が開始してから 入院時期 1)子宮口、児頭下降度などの所見から決める
2)初産婦では予定日前後になること多い
3)経産婦では前児の分娩週数も参考
痛くなってから 麻酔薬の投与開始 痛くなってから
1)スムース
2)麻酔開始後に微弱陣痛になることあり。その場合には、陣痛促進剤を使用
3)経産婦では、麻酔が時に間に合わないこともあり
分娩進行 1)徐々に進行
2)医療介入が必要
子宮頚管拡張(ダイラパン、バルーンなど)、人工破膜、陣痛促進剤の使用
3)陣痛が来ない場合、入院日数が長くなったり、帝王切開となる場合あり。子宮破裂の報告(日本産婦人科医会)あり
初産婦、特に高年初産婦 お勧めされる妊婦 1)経産婦 とくに前回の分娩時間が短かった方
2)自宅が遠方な方
24時間対応のマンパワーが必要 分娩施設 マンパワーが少なくて済む

 

鎮痛の方法
硬膜外腔という背中の脊髄の近い場所に、カテーテルを挿入・留置して局所麻酔薬と医療用麻薬を注入する硬膜外鎮痛法による鎮痛を行います。 カテーテルから数回に分けて局所麻酔薬と医療用麻酔薬を硬膜外に注入し、痛みが現れたタイミングで適量を単発的に注入する間歇的ボーラス投与法(オンデマンド)で行います。 痛みの閾値には個人差があるため、患者さんと相談しながら、必要かつ十分な麻酔量を決定して投与します。それにより持続的注入法に比べて分娩がよりスムーズに進み、微弱陣痛、回旋異常による分娩停止など分娩中のトラブルが少なくなります。

 

 
無痛分娩の方法と流れ
本格的な陣痛が開始し、子宮口が開き始め4㎝程度開大したら麻酔薬の使用を開始します。 陣痛開始前にカテーテルを予め挿入しておくこともあります。
  1. カテーテルの挿入と留置を手術台で行います.背中を消毒し、腰のあたりに局所麻酔を施した後、針を刺してカテーテルを挿入します。針の穿刺時には、痛みはなく押される感覚になります。処置中は姿勢が重要です。横向きで両膝を抱えて背骨を丸くするようにします。身体がねじれたり反ったりしないようにします。
  2. カテーテルから数回に分けて麻酔薬を注入します.約20~30分程度で効果が出現し、痛みが軽減します。個人差はありますが、注入後1.5時間~2時間程度は鎮痛効果が持続します。十分なモニタリングをして母児共に安定し健康であると判断された場合には、部屋に戻って軽食の摂取やトイレ歩行が可能になります。この間、自由にリラックスして過ごせます。
  3. 麻酔薬が切れ始めてきたら次の注入をします。麻酔の効果が切れ始めると少しずつ痛みの感覚が出てきます。我慢ができる範囲であれば少し頑張ってみましょう。この段階は、いわゆる「和痛」に近いと言えます。
  4. 出産が近づくといきみ感を残すため、麻酔薬の投与をやや控えます.また赤ちゃんが下降してくると痛みの部位が会陰や肛門周囲へ変化してくるため、通常の麻酔で効果が少ないと感じることがあります。この場合には薬の種類や注入の仕方を変更します。ただ、ここで大切なことはいきむ感覚まで無くさないということです。一番赤ちゃんが苦しい時期にいきむことが出来なければ吸引カップや鉗子で赤ちゃんの頭を強く引っ張らないといけません。それは赤ちゃんにとって強いストレスであり頭部外傷のリスクもあります。また主体的なお産のために、いきむ経験は大切な出産感覚と考えています。
  5. 出産・縫合が終了して、産後2時間程度経過した時点で、カテーテルを抜去します

 

分娩への影響
  1. 陣痛が弱くなりやすいので、その結果、陣痛促進剤の必要性が高くなる可能性があります
  2. 陣痛間隔が延長し分娩時間が長くなる報告があります
  3. 産道の筋弛緩のため回旋異常が起こりやすくなります。そのため分娩停止による吸引分娩や鉗子分娩、帝王切開などの確率が高くなります。麻酔の強さを適度に調節することによって回旋異常の予防に努めています。

 

当クリニックの分娩・無痛分娩件数について(2020~2024)

  2020 2021 2022 2023 2024
分娩総数 240 251 254 250 246
経腟分娩 205 209 204 216 211
 無痛分娩あり  55(26.9% )  60(28.7%)  78(38.2%)  88(40.7%)  96(45.5%)
 無痛分娩なし  150(73.1%)  150(71.3%)  126(61.8%)  128(59.3%)  115(54.5%)
帝王切開術 35 42 50 34 35

無痛分娩と分娩時間(2010~2017)

  人数 分娩時間
無痛分娩なし 4626 7時間18分*
無痛分娩あり 1461 11時間49分*
経腟分娩数 6087名  

  無痛分娩を施行した場合、分娩時間がやや長くなる(* t-tset P<0.01)傾向があります。その背景としては、もともと分娩時間が長い初産婦さんで無痛分娩を希望される率が高いこと、陣痛がやや弱くなることなどが考えられます。また分娩が難産となり進行が遷延化している場合、疲労を軽減する目的で無痛分娩を施行する例が多いことも一因となっていると考えられます。

無痛分娩と分娩出血量(2010~2017)

  人数 分娩出血量(g)
無痛分娩なし 4626 278±201*
無痛分娩あり 1461 300±209*
経腟分娩数 6087名  

  分娩出血量は無痛分娩で300g、無痛分娩でない場合は278gで、無痛分娩で多くなっている(Welch two sample test p<0.01 )傾向がありますが、その差はわずか22gで、実際の臨床では危険性に差はないといえるでしょう(分娩時の正常出血量の基準は 500g以下と定義されています)。

 無痛分娩の手順書

無痛分娩を施行するにあたっては、手順書を作成し、担当職員に周知させ、安全性の確保に努めています。

  • インフォームドコンセントの実施
    • 「無痛分娩依頼書(同意書)」を参考に,患者説明を行う.生じうる合併症としては,頭痛,背部痛,出血,感染,神経損傷(お産が原因のこともある)などを説明する.
    • 無痛分娩依頼書(同意書) ◎無痛分娩依頼書をダウンロード
    • 局所麻酔薬中毒やくも膜下誤注入についても説明し,絶食の意義を理解してもらう.
    • 少量分割注入で重篤な結果は回避できることを十分説明する。
    • 完全な無痛ではなく痛みの軽減が実際の目標であることを理解してもらう.
  • 無痛分娩用タイムアウトの手順に従って器材の点検、準備
  • 食事について
    • 予め分娩前より無痛分娩を希望している場合は,局所麻酔薬中毒やくも膜下誤注入の可能性を考えて、カテーテル挿入までは絶飲食とする。食事摂取直後に無痛分娩を希望した場合は、担当医師とカテーテル挿入の時間を相談する。
    • 水分摂取に関しては,クリアウォーター(OS-1など)であれば,硬膜外無痛分娩中も摂取できるが,緊急帝王切開のリスクが高くなった時点で中止することがある旨を伝える.空腹のため食事を希望した場合は,担当医師と相談の上、少量の軽食(サンドウィッチなど)のみ可とする.
  • 硬膜外カテーテル挿入にあたって
    • 麻酔チャートの記録
    • 手術台の上で、細胞外液(ヴィーン500mlなど)にて静脈ライン確保。
    • 酸素投与、気管内挿管がいつでもできるように人口呼吸器(レスピレータ)と酸素チューブを接続しておく。
    • 救急カートの喉頭鏡、枕、気管内チューブ、バイトブロックの器材を確認し、気管内挿管が必要になった時に備えておく。救急カート内の昇圧剤(エフェドリン、ネオシネジン、ボスミン)、冷蔵庫内の薬剤(サクシン、プロポフォール)を確認。
  • 麻酔範囲
    • 分娩第I期にはT10からL1の範囲をブロックし,分娩第II期はS2からS4の範囲をさらに遮断するする必要がある.
  • 硬膜外鎮痛
    • L2/3もしくはL3/4より硬膜外カテーテルを挿入(頭側3-5cmが目安.深すぎと片効きになりやすく,浅すぎると抜ける可能性がある)
    • 2%ロピバカイン(アナペイン㊟2mg/dl)を2-3mLずつ3から4回に分けて注入.その都度血管内注入や,くも膜下注入の症状・所見がないことを確認.
    • 血圧を硬膜外鎮痛開始から30分間は5分ごとに測定する.その後は15分毎.低血圧は輸液と昇圧薬(エフェドリンかネオシネジン)で治療する.
    • T10までの鎮痛が目標.
    • 無痛分娩中は,痛みが強い側を下にした側臥位とし,少なくとも1.5時間毎に効果と副作用の有無を確認する.特にカテーテルのくも膜下迷入による下肢運動不能,血管内迷入による
    • 鎮痛効果消失や中枢神経症状,神経刺激による放散痛の有無に注意する.
    • 努責のタイミングをうまくとれない場合は,陣痛計や触診を用いながら介助者(助産師)がコーチングを行う.
    • S領域へ硬膜外鎮痛を効かせるためには,半坐位とするとよいが,急に体位変換を行うと低血圧を起こすことがあるので,注意する.

無痛分娩に関する設備および医療機器の配備状況

  1. 麻酔器
  2. AED
  3. 母体用生体モニター
    • 心電図
    • 非観血的自動血圧計
    • パルスオキシメーター
  4. 蘇生用設備・機器
    • 酸素配管・酸素流量計
    • 喉頭鏡
    • 気管チューブ(#6.5,#7.0,#8.0)・スタイレット
    • バイトブロック・経口エアウェイ
    • 吸引カテーテル・吸引装置など
  5. 緊急対応用薬剤
    1. アドレナリン
    2. 硫酸アトロピン
    3. エフェドリン・フェニレフリン
    4. 静注用キシロカイン
    5. ジアゼパム
    6. チオペンタール・プロポフォール
    7. スキサメトニウム・ベクロニウム・
    8. 硫酸マグネシウム
    9. 静注用脂肪乳剤
    10. 酢酸加リンゲル液など

緊急時の対応

緊急時の体制 自施設で一次対応後、他施設と連携
他施設連携時の重症母体搬送先
医療機関名 群馬大学医学部附属病院
搬送方法 救急車
搬送時間 30分
他施設連携時の重症母体搬送先
医療機関名 前橋赤十字病院
搬送方法 救急車
搬送時間 30分
他施設連携時の重症母体搬送先
医療機関名 高崎総合医療センター
搬送方法 救急車
搬送時間 10分
他施設連携時の重症新生児搬送先
医療機関名 群馬県立小児医療センター
搬送方法 救急車
搬送時間 40分
産婦人科常勤医人数 2名
上記産科勤務常勤医のち無痛分娩研修修了者数 2名
上記産科勤務常勤医のうち救急蘇生法講習会受講者数 J-CIMELS:2名
上記産科常勤医のうち新生児救急蘇生法講習会受講者数 NCPR:2名
産科勤務助産師・看護師総人数 16名
産科勤務助産師・看護師のうち無痛分娩研修修了者数 2名
産科勤務助産師・看護師のうち新生児救急蘇生法講習会受講者数 NCPR:14名
産科助産師・看護師のうち救急蘇生法講習会受講者数 J-CIMELS:2名
ALSO:2名
BLS:1名
氏名 織田利光
勤務形態 常勤
所有資格 日本産婦人科学会産婦人科専門医

スタッフ体制

常勤医師数

  常勤医 非常勤医 合計
産婦人科医師数  2名  1名  3名
麻酔科医師数  0名  0名  0名
 合計  2名  1名  3名

無痛分娩麻酔管理者について

氏名 織田利光
勤務形態 常勤
所有資格 日本産婦人科学会産婦人科専門医

麻酔担当医について

1.氏名 織田利光
勤務形態 常勤
所有資格 日本産婦人科学会産婦人科専門医
麻酔科研修歴 研修施設名:日本医科大学附属第一病院 
研修期間: 1989-12-01 ~ 1990-05-31           
指導医名: 横山和子  
経験症例数:全身麻酔  50
経験症例数:硬膜外麻酔 18
麻酔実施歴 実施施設名:医療法人愛生会セントラルレディースクリニック 
実施期間: 1996-09-16~ 2022-12-31 
経験症例数:全身麻酔 242 
経験症例数:硬膜外麻酔 599
無痛分娩実施例 実施施設名:医療法人愛生会セントラルレディースクリニック 
実施期間: 1996-09-15~ 2022-12-31 
経験症例数:  1 1 20  
研修受講歴 カテゴリA 講習会名: (カテゴリA)JALAカテゴリーA講習
受講年月日:2021-10-29 
受講認定番号:JALA-0001-2110043-001 
研修受講歴 カテゴリB 講習会名:(カテゴリB)JALAカテゴリーB講習
産科麻酔に関連した病態への対応のための講習会
(無痛分娩麻酔管理者・麻酔担当医対象)
受講年月日:2024-02-11 
受講認定番号:JAL 
2.氏名 角田 隆
勤務形態 常勤
所有資格 日本産婦人科学会産婦人科専門医
麻酔科研修歴 研修施設名:日本医科大学附属第一病院 
研修期間:  1984-04-01~1984-09-30  
指導医名: 横山和子  
経験症例数:全身麻酔  20
経験症例数:硬膜外麻酔 13
麻酔実施歴 実施施設名:医療法人愛生会セントラルレディースクリニック 
実施期間: 1996-09-16~ 2022-12-31 
経験症例数:硬膜外麻酔  1077
無痛分娩実施例 実施施設名:医療法人愛生会セントラルレディースクリニック 
実施期間: 1996-09-16~ 2022-12-31 
経験症例数:  1102  
研修受講歴 カテゴリA 講習会名: (カテゴリA)JALAカテゴリーA講習
受講年月日: 2021-09-28
受講認定番号: JALA-0001-2109024-001

日本産婦人科医会偶発事例報告・妊産婦死亡報告事業への参画状況

日本産婦人科医会偶発事例報告への参画の有無あり      
妊産婦死亡報告事業への参画の有無あり